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お葬式と戒名 |
仏さまの教えを守って、仏さまの教えの道を進もうとするもの、つまり仏道を修行するものが、必ずおさめなくてはならない最も基本的で根本的な修行の心得を、仏教では「戒(かい)」と「定(じょう)」と「慧(え)」の「三学」といいます。「戒」は戒律で、悪を戒めて善を修すること。「定」は禅定で、心を安定させ雑念を払って精神の統一を行うこと。「慧」は智慧で、煩悩を断って真実の道を見極めること。この三つをまろやかに行うことが、仏道修行の完成をもたらすために必要だとされるのです。
仏教で「戒律を守りなさい」というのは、この「戒定慧」の「三学」からきているのです。戒律の「戒」は「いましめ」と書くように、自発的に悪行を断とうとする心の働き、「律」は「律する」というように、決められた規律や規則を守ろうとする心の働きをいうのですが、その両面からの心の働きを「戒律」というのですから、一言でいえば、悪を断って善を行うことを、自分の心の働きとしてつとめていくこと。それが「戒律」を守るということですね。
「戒名(法号)」というものも、もともとはそこからきているのです。仏さまのおしえの道、つまり仏道を歩もうとするものが、「三学」にもとづいて「戒律」を心していくことによって仏法に帰依し、仏の弟子になった証しとしての名前をいただく。それが「戒名」です。ですから、本来は生前に「戒名」をもらうのが原則なんですが、檀家制度が確立してからは、死後に戒法(戒律の根本)を授けられて、葬儀の引導作法の中で受戒して「戒名」をもらうことが一般的になっています。
お葬式というのは、本来は死んだ人をあの世に送る儀式ですが、仏教で「あの世」へ送るといえば、もちろん仏さまのいらっしゃる「浄土」へ送ることになります。そこが死後に行く最もすばらしい、幸せなところだからです。そのためには、まず亡くなった人を仏教の帰依者にしなければなりません。仏さまの弟子にして、仏さまとの縁をしっかりと結んで、間違いなく仏さまのもとへ行けるようにしてから、あの世に送り出すわけですね。
お葬式において死者に戒律を授けるのは、その人を仏教の帰依者にするためなんです。そのことを「戒法」というのですが、その「戒法」をいただくと、その証しとして「戒名」を授かるのです。ですから葬儀というものは、死者と生者の別れの儀式であると同時に、死者を仏弟子として無事に仏さまのいらっしゃる浄土に送るための儀式なんです。それが葬儀というものの根本です。そういう意味で、昔は葬儀のときには死者の頭を剃りました。女の人でもちゃんと頭を剃って、つまり剃髪することによって、仏さまの弟子になったということの証しとしたわけです。
仏教でのお葬式と戒名には、そのような意味と形式があることを知っていただけたらと思います。 |
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