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人を生かし、物を生かす |
「一切衆生(いっさいしゅうじょう)」という言葉を聞いたことがありますか。仏教では「一切人間」といわないで、「一切衆生」といいます。
「衆生」は「大衆」の「衆」に「生まれる」と書きます。ですから「一切衆生」とは、すべての生きとし生けるものという意味です。この場合の「生けるもの」は、人間や動物はもちろんですが、それだけでなく草や木や、さらに土にいたるまで生命があるものとしてとらえるのです。それらすべての生命を大切にしていく。その生命をよりよく生かしていく。仏教の教えはそう告げているわけです。
ところで、お茶で有名な千利休の孫の千宗旦(そうたん)という人は、わび茶に徹したすばらしい茶道家だったようです。
ある時、その宗旦のところへ、親しい大徳寺の和尚から一輪の椿の花がおくられました。ところが使いの小僧が、あやまって途中で枝を落としてしまい、椿の花がとれてしまったのです。「くれぐれも大切に持って行くように……」。小僧は和尚の言葉を思いだしましたが、どうすることもできません。思いあぐねて落ちた花と枝をもって宗旦のもとへ行き、心から「申し訳ありません」と詫びました。宗旦は「これから気をつけるように」と小僧をさとした後、枝をそのまま茶室の床柱の花生(はないけ)に挿し、花はさりげなく床に置いたのだそうです。それがえもいわれぬ風情をかもしだしたといいます。
宗旦は、贈り主の和尚の心を生かし、小僧を救い、さらに椿の花と枝をともに生かしきったわけです。
なかなかこのようにはいきませんが、人を生かし物を生かせたら、こんなすばらしいことはありませんね。 |
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