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兎と亀の競争 |
イソップ物語の「兎と亀」の競争の話は有名ですね。早いはずの兎が油断して昼寝をしてしまったために、亀に負けてしまうというお話です。
私たちはこれを、油断を戒めるたとえ話として理解していますが、この話にもいろいろな受け取り方があるのだということを、仏教者のひろさちやさんの本で知りました。(ひろさちや『釈迦とイエス』祥伝社)
まず、最近の若者にこの話の感想を聞いたところ、三人に一人の割合で「兎と亀は競争しないほうがよかった」と答えたそうです。兎と亀のようにタイプのまったく違った者同士が、なにも競争しないでもいいではないか。兎は兎、亀は亀でそれぞれが自分のライフ・スタイルを持って生きればいい。そういうことなんだそうです。なるほどと思いました。
次にインド人に感想を聞いてみたところ、「兎に問題はない。悪いのは亀だ」という答えが返ってきました。「なぜ?」という質問には「亀は兎を追い抜いたときに『兎さん、起きなさい』と声を掛けてやるべきだ。それが友情だろう。亀にはその友情がない。けしからん亀だ」と答えたそうです。そこで「だが、競争しようと話し合って走っているのだろう。それなら、昼寝をしている兎を起こす必要はないではないか」と言うと、「しかし、亀には兎が昼寝をしているのか、それとも病気で苦しんでいるのか分からないはずだ。だから声をかけてやるべきだ」。こう語ったそうです。これもなるほどと思いました。
また、イランにも同じような話があるそうで、兎と亀が競争をするまでは同じだそうですが、そのあとが違っていて、亀は自分そっくりの弟を呼んで来てあらかじめゴールに立たせておくのだそうです。したがって、はじめから兎が負けるに決まっているのです。「そんなのズルいよ」と言うと、イラン人は「ズルイのではない、亀に知恵があったのだ」と主張する。そこで、「そんなことまでしなければならない競争なら、競争そのものをやめたほうがよい」と言うと、イラン人は「そうだ、そのとおりだ」と言い、さらに「われわれもそう思ってこの話を子供たちに聴かせているのだ。競争なるものは、かくもおぞましきものである。だから仲間どうしの競争をやめろ。そう子供たちに教えているのだ」。こう語ったそうです。これまたなるほどと思いました。
小さなたとえ話ひとつでも、こんなにいろいろな教えが汲みとれます。ましてや仏の教えをや、と思わせられたことでした。 |
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